- 胸郭出口症候群は、首から腕へ向かう神経や血管が、鎖骨の周りで圧迫される状態です。
- 腕を上げる検査は、胸郭出口症候群を疑ったときに使われるものの一つです。
- 治療の研究で最も人数が多いのは、神経性の胸郭出口症候群と診断された150人を追った観察研究です(Balderman 2019)。
- 職場の休憩室のソファで、両腕を肘かけに預けたまま昼休みを過ごすことがあります。
胸郭出口症候群とヨガ|腕のしびれの研究と、腕を上げるポーズ
62%という数字があります。症状のない人に腕を上げる検査をしたとき、脈の変化が出た人の割合です(Plewa 1998)。両腕を上げるポーズのあとに手がしびれる人にとって、この数字は気になるところでしょう。しびれがあるからといって、すぐに胸郭出口症候群(首から腕へ向かう神経や血管が、鎖骨の周りで圧迫される状態)だと決まるわけではありません。
診断の基準そのものが定まっておらず、症状のない人にも検査の反応は出ます。腕を上げてしびれるという一事だけで、ヨガをやめるか続けるかを決める必要はありません。 まず、しびれがどの腕の位置で強くなるのかを分けて見ます。そのうえで、研究でわかっていることと、まだ確かめられていないことを並べてから選ぶのが現実的です。
ここでは、胸郭出口症候群の診断と治療の研究をたどり、腕を上げるポーズをどう調整するかを整理します。ヨガそのものを調べた研究は見つかりませんでした。代わりに、検査の研究と保存療法の研究から言えることを取り出します。
胸郭出口症候群とはどんな状態か
胸郭出口症候群は、首から腕へ向かう神経や血管が、鎖骨の周りで圧迫される状態です。手や腕のしびれ、だるさ、痛みとして現れます。腕を上げたときによく出るという特徴がありますが、同じようなしびれはほかの原因でも起こるため、症状だけでは区別できません。
「胸郭出口症候群」という名前は、ひとつの検査で確定できる病名ではありません。研究のレビューでは、診断の定義が定まっていないことが、治療の比較を難しくしていると指摘されています(Povlsen 2014)。とくに議論の多い型では、同じ症状でも研究ごとに対象の条件が違います。
診断の基準が定まっていないことは、治療の研究にも影響しています。胸郭出口症候群の治療をまとめたコクランのレビューでは、条件を満たした試験が、55人を対象にしたものと37人を対象にしたものだけでした(Povlsen 2014)。手術と手術を比べた質の非常に低い根拠はあるものの、手術が何もしないより良いというランダム化の根拠はありません。運動や理学療法を、何もしない場合と比べた質の高い試験も見当たりません。
保存療法(手術以外の治療)の研究をまとめたレビューでは、1983年から2001年までに出版された10本の研究と、保存療法と手術を比べた3本の研究が対象になりました(Vanti 2007)。保存療法が何もしないより良いのか、どの方法が最も良いのかは、このレビューでも確定できませんでした。つまり、胸郭出口症候群と診断された人がヨガを続けるべきか、やめるべきかを、研究から直接答えることはできないのです。
同じ胸郭出口症候群でも、症状の出方は人によって違います。どの場面で出るかは、仕事の姿勢や休み方によっても変わります。病名だけで運動の可否を決めず、自分の出方を先に確かめることが出発点になります。
腕を上げる検査は、何を映しているのか
腕を上げる検査は、胸郭出口症候群を疑ったときに使われるものの一つです。健康な53人に検査をした研究では、腕を上げる姿勢で脈が変化した人が62%、しびれが出た人が36%いました(Plewa 1998)。痛みが出た人は21%で、ほかの検査では0%から2%でした。症状がない人でも、腕の位置を変えるだけで脈や感覚に反応が出るということです。
ただし、検査の反応がすべて当てにならないわけではありません。この研究では、痛みを基準にすると偽陽性の上限が7%から10%に収まり、2つの検査で同じ腕に痛みが出た場合も10%でした(Plewa 1998)。3つの検査で症状が出た場合は13%、4つで出た場合は7%です。脈の変化やしびれだけを頼りにするのではなく、痛みの出方と組み合わせて見る必要があります。
しびれは、腕を上げた時間と深さによって出方が変わります。検査で反応が出たからといって、神経や血管が日常的に圧迫されているとは限りません。この点を取り違えると、ポーズの影響で出たしびれを、病気が進んだ印と読んでしまうことがあります。
検査は、腕の位置を変えたときに脈・感覚・痛みのどれが変わるかを見るものです。どれか一つが変わっただけでは、日常生活で神経や血管が圧迫されている証拠にはなりません。検査の結果と、仕事や家事で腕を上げる時間、しびれが出るまでの時間を合わせて読む必要があります。検査の名前や組み合わせは、医療機関によって同じではありません。同じ人でも、検査する人の手技や、力の入れ方で反応が変わることがあります。
治療の研究からわかること・わからないこと
治療の研究で最も人数が多いのは、神経性の胸郭出口症候群と診断された150人を追った観察研究です(Balderman 2019)。理学療法だけで満足した人は27%、手術を受けた人は60%、治療や追跡を断った人は13%でした。比較試験ではないため、理学療法と手術のどちらが優れているかを決める研究ではありません。
この研究の結論は、理学療法で十分な改善が得られないときに手術が有効でありうる、というものです。手術を受けた人では大きな症状の改善が期待できる一方、理学療法だけで満足する人と手術に進む人を事前に分ける要因は、この集団では見つけにくかったとしています(Balderman 2019)。この集団では全員がまず理学療法を受け、そのうえで手術に進むかどうかを決めていました。
この観察研究では、理学療法を受けた人の症状の指標が、追跡の中央値21.1か月で-15.6±3.0、手術を受けた人では12.0か月で-29.8±2.4でした(p値は.001)。ただし、どちらを選ぶかは本人と医師が決めたもので、無作為に振り分けた比較ではありません。数字の差をそのまま治療の優劣として読むことはできません。
胸郭出口症候群の治療では、症状の強さと、日常生活で困っている程度の両方が見られます。痛みが軽くても、仕事で腕を上げ続けられないなら困り方は大きくなります。研究の数字だけでは、その人の困り方まではわかりません。
ヨガそのものを調べた研究は、この根拠の中に一つもありません。保存療法の一つとしてヨガが手術と比べられた研究も、ヨガが何もしないより良いかを調べた研究も見当たりません。したがって、胸郭出口症候群の人にヨガが効くか、悪くするかは、現時点では研究の答えがない領域です。
ヨガで腕を上げるときの調整
職場の休憩室のソファで、両腕を肘かけに預けたまま昼休みを過ごすことがあります。立ち上がるときに、指先がじんじんすることがあります。腕の高さを変えるだけでしびれが軽くなるなら、ポーズの形を少し変える余地があります。まず、どの位置でしびれが出るのかを自分で確かめてみてください。
しびれやすい腕の位置は、真上、耳の横、後ろの大きく三つに分けられます。真上に上げる形と、耳の横に添える形、後ろに回す形では、腕の重さのかかり方が違います。それぞれの代わりの形を次の表にまとめました。
| 腕の位置 | しびれが出やすい形 | 代わりの形 |
|---|---|---|
| 真上 | 手を天井へ伸ばして長く保つ | 肘を軽く曲げ、肩の高さより上に長く置かない |
| 耳の横 | 腕を耳に近づけ、肩をすくめる | 腕を前に回し、肩と耳の間をあける |
| 後ろ | 腕を背中側で組む、後ろへ強く引く | 手を腰に当て、胸を開くだけにする |
腕を上げる時間は短く区切り、しびれが出たら一度下ろします。肘を曲げて上げると、腕の重さが肩にかかりにくくなります。手のひらを上に向けるか下に向けるかでも、肩の入り方は変わります。
胸を開くポーズでは、腕を後ろに引く代わりに、肩甲骨を寄せる意識だけにとどめます。腕を後ろで組む形は、肩が下がって腕の位置が定まりやすいので、しびれが出る人には向きません。手を腰に当てる形なら、胸を開きながら腕の高さを上げずに済みます。
立った姿勢で腕を上げる日は、壁に手を添えて行うと、腕の重さを壁に預けられます。仰向けで腕を上げるポーズは、肩が床に固定されるぶん、立っているときより楽に感じることがあります。どの形でも、しびれが出るまで待たず、出る少し手前で止めるのが実際的です。
ポーズを選ぶときに、腕を上げる回数より、上げている時間のほうが問題になりやすいです。短い時間で何度も上げ下げする形は、腕を下ろすたびに感覚が戻るため、しびれが蓄積しにくくなります。回数が多いクラスでも、一つのポーズを長く保つ時間を減らせば対応できます。
温かい部屋では、しびれが暑さのせいか腕の位置のせいか分けにくくなります。室温が高いと体は皮膚の血管を広げて熱を逃がそうとするため、指先の感覚が変わることがあります。しびれが出たときは、まず腕を下ろし、次に部屋の外で同じポーズを試すと、原因を切り分けやすくなります。
始める前に確かめること
胸郭出口症候群と診断されている人は、運動を始める前に、診察した医師に腕を上げる運動の可否を確かめてください。しびれが続いている期間や、仕事で腕を上げる時間の長さによって、注意すべき点は変わります。自己判断で強いストレッチを始めると、症状を悪化させる可能性があります。
次のような変化があるときは、ヨガを続ける前に医療機関を受診してください。手が冷たく白くなる、紫になる、腕が腫れる、力が入らない、といった変化です。これらは神経や血管の圧迫が強い可能性を示すもので、ポーズの調整だけで様子を見る場面ではありません。
症状の記録を付けるなら、ポーズの名前より、腕の高さと続けた時間、しびれが出た場所を書くほうが役に立ちます。毎回同じ項目で書くと、クラスを変えたときに何が変わったのかを見比べられます。記録は医師に見せる前提で作ると、診察のときの説明も短くなります。
クラスを選ぶときは、腕を上げる時間の長さ、肘を曲げるか伸ばすか、室温を並べてみてください。同じポーズでも、肘を曲げるだけで腕の高さは下がります。しびれが毎回出るなら、その条件を一つずつ変えて、どの組み合わせなら続けられるかを試すことになります。あなたが最初に変えるなら、どの条件を選びますか。
よくある質問
腕を上げてしびれるのは、胸郭出口症候群ですか。
腕を上げたときのしびれだけで、胸郭出口症候群と決めることはできません。健康な人に同じ検査をしても、脈の変化やしびれが出ることがあるからです(Plewa 1998)。痛みの出方やしびれが続く時間、ほかの検査の結果を合わせて、医師が判断します。気になる状態が続くなら、整形外科か血管外科で相談してください。
ヨガを続けると、症状は悪くなりますか。
ヨガそのものと胸郭出口症候群の関係を調べた研究は見つかっていません。腕を上げる時間が長いポーズや、肩をすくめる形は、しびれが出やすい条件です。しびれが出たら腕を下ろし、肘を曲げる・時間を短くするといった調整をして、翌日に症状が残らない範囲で続けてください。痛みが強くなる日が続くなら、いったん休んで医師に相談するほうが安全です。
手術以外に方法はないのですか。
手術以外の治療としては、理学療法や運動が試されています。ただし、保存療法が何もしないより良いのか、どの方法が最も良いのかは確定していません(Vanti 2007)。神経性の胸郭出口症候群の150人を追った研究では、27%が理学療法だけで満足し、60%が手術を受けました(Balderman 2019)。まず保存療法を試す順番は、この結果と矛盾しません。
温かい部屋のクラスは避けたほうがよいですか。
温かい部屋そのものが胸郭出口症候群を悪くするかは調べられていません。ただし、暑さで指先の感覚が変わると、しびれが腕の位置によるものか判断しにくくなります。しびれが出やすい人は、まず常温のクラスで腕の位置を確かめ、問題がないことを確認してから温かい部屋を試すと、原因を分けやすくなります。温度を上げる前に、腕を下ろしてしびれが消えるかを試しておくと、判断の材料が増えます。
この記事の限界
測定の面では、この記事が引いた研究の多くが、症状の出方や検査の反応を限られた場面で記録したものです。胸郭出口症候群の診断基準は研究ごとにそろっておらず、同じ病名でも対象になった人の条件は同じとは限りません。研究ごとに対象の選び方が違うため、数字を単純に並べることはできません。
ヨガそのものの効果や有害事象を調べた研究は見つからず、温かい部屋のヨガを扱った研究もないうえ、日本人を対象にした研究はこの根拠になく、国内の患者に同じ結果が当てはまるかはわかっていません。この記事は治療方針を決める代わりになるものではなく、運動の可否や痛みの評価は、診察した医師の判断が優先されます。
参考文献
- Povlsen ほか. Treatment for thoracic outlet syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(11):CD007218.
- Plewa ほか. The false-positive rate of thoracic outlet syndrome shoulder maneuvers in healthy subjects. Acad Emerg Med. 1998;5(4):337-342.
- Vanti ほか. Conservative treatment of thoracic outlet syndrome. A review of the literature. Eura Medicophys. 2007;43(1):55-70.
- Balderman ほか. Physical therapy management, surgical treatment, and patient-reported outcomes measures in a prospective observational cohort of patients with neurogenic thoracic outlet syndrome. J Vasc Surg. 2019;70(3):832-841.
足の裏から温まる床の上で、自分の呼吸の速さを一度確かめてみる
- 向く人: 温かい部屋で汗をかきながら、呼吸に合わせて体をゆっくり動かしたい人
- 向く人: 流派の名前より先に、暑さの中で自分の体がどう反応するかを知りたい人
- 向かない人: 妊娠中や心臓・腎臓の持病で、医師から高温の場所での運動を止められている人
- 向かない人: 暑さで気分が悪くなりやすく、室温の高い部屋そのものを避けたい人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。オンザショア立川店は立川駅から徒歩1分、溶岩プレートの床で部屋を温めるヨガスタジオです。
よくある質問
腕を上げてしびれるのは、胸郭出口症候群ですか。
腕を上げたときのしびれだけで、胸郭出口症候群と決めることはできません。健康な人に同じ検査をしても、脈の変化やしびれが出ることがあるからです(Plewa 1998)。痛みの出方やしびれが続く時間、ほかの検査の結果を合わせて、医師が判断します。気になる状態が続くなら、整形外科か血管外科で相談してください。
ヨガを続けると、症状は悪くなりますか。
ヨガそのものと胸郭出口症候群の関係を調べた研究は見つかっていません。腕を上げる時間が長いポーズや、肩をすくめる形は、しびれが出やすい条件です。しびれが出たら腕を下ろし、肘を曲げる・時間を短くするといった調整をして、翌日に症状が残らない範囲で続けてください。痛みが強くなる日が続くなら、いったん休んで医師に相談するほうが安全です。
手術以外に方法はないのですか。
手術以外の治療としては、理学療法や運動が試されています。ただし、保存療法が何もしないより良いのか、どの方法が最も良いのかは確定していません(Vanti 2007)。神経性の胸郭出口症候群の150人を追った研究では、27%が理学療法だけで満足し、60%が手術を受けました(Balderman 2019)。まず保存療法を試す順番は、この結果と矛盾しません。
温かい部屋のクラスは避けたほうがよいですか。
温かい部屋そのものが胸郭出口症候群を悪くするかは調べられていません。ただし、暑さで指先の感覚が変わると、しびれが腕の位置によるものか判断しにくくなります。しびれが出やすい人は、まず常温のクラスで腕の位置を確かめ、問題がないことを確認してから温かい部屋を試すと、原因を分けやすくなります。温度を上げる前に、腕を下ろしてしびれが消えるかを試しておくと、判断の材料が増えます。