- アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と、かかとの骨をつなぐ太い腱です。
- 腱の痛みに対して、研究が確かめたのは「何もしないより、腱に負荷をかける運動をしたほうが良い」という方向です。
- 下向きの犬のポーズは、両手と両足で体を支え、お尻を高く上げる形です。
- 腱のリハビリでよく使われる考え方は、その日の痛みだけでなく、翌朝の反応を見て負荷を決めるものです。
アキレス腱の痛みとヨガ|腱の運動療法の研究と、かかとを下ろすポーズの加減
根川緑道を朝に歩き始めると、最初の数歩だけ、かかとの少し上がこわばって踏み出しにくい。舗装の継ぎ目を踏むたびに、ふくらはぎの下のほうがつっぱる。左右から草のにおいが立ち、犬を連れた人が追い抜いていく。しばらく歩くと気にならなくなるので、そのままにしてきた人もいるでしょう。ところが、下向きの犬のポーズでかかとを床に押しつけたとき、同じ場所に痛みが走ると、伸ばしてよいのか迷います。
かかとの少し上が朝にこわばり、歩き出すと痛む。その状態でヨガを続けてよいのか、伸ばす動きをやめるべきなのか。先に結論を書くと、下向きの犬でかかとを床に押しつける伸ばしは、この記事で引いた研究が確かめた治療ではなく、かかとは浮かせたままでもかまいません。痛みを記録しながら腱にゆっくり負荷をかける、という研究の組み立てを土台に、下向きの犬でのかかとの扱いと、始める前に確かめることを順に書きます。
かかとの少し上の痛みは、どこから来るのか
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と、かかとの骨をつなぐ太い腱です。アキレス腱症は、そのうちかかとの少し上の部分に痛みが出る状態を指します。足の裏が痛む状態とは場所が違い、ここでは触れません。
痛む場所は、かかとの骨のすぐ上、指でつまめるあたりです。かかとの底が痛む場合や、かかとの後ろの骨の出っ張りが痛む場合とは、押したときの感じが違います。鏡の前でつま先立ちをすると、腱の動きと痛む場所の関係が確かめやすくなります。
アキレス腱症は、スポーツをする人だけのものではありません。オランダの一般診療所の記録では、21〜60 歳の成人の発生率が 1,000 人あたり 2.35 で、スポーツとの関係が記録されたのは 35% でした(de Jonge 2011)。残りの多くは、運動の習慣と結びつかない形で起きていたことになります。
腱は、歩く・走る・跳ぶたびに体重の何倍もの力を受け止めています。負荷が急に増えたときや、休んだあとに運動へ戻したとき、腱の組織が追いつかずに痛みが出ると考えられています。だからこそ、痛みが消えた日に一気に元の量へ戻すのではなく、少しずつ段階を踏むことが話題になります。
ヨガそのものを調べた研究は、この記事の根拠の中に見つかりませんでした。伸ばすだけの方法をほかの治療と比べた研究もありません。そのため、ここから先は、腱にゆっくり負荷をかける運動を中心に紹介します。
痛みを記録しながら続けた群と、6 週間やめた群
腱の痛みに対して、研究が確かめたのは「何もしないより、腱に負荷をかける運動をしたほうが良い」という方向です。Silbernagel(2007)は、アキレス腱症の 38 人を 2 つの群に分けました。痛みを 0〜10 で記録し、決めた範囲に収まるなら走る・跳ぶを続けてよい群と、最初の 6 週間だけそれをやめる群です。
12 か月後の症状と活動の点数は、続けた群が 57(標準偏差 15.8)から 85(12.7)へ、やめた群が 57(15.7)から 91(8.2)へ上がりました。どちらも大きく改善し、続けたことによる悪い影響は示されませんでした。38 人という規模の小ささは、結果を読むときに頭に置いておきたい点です。
この試験で大事なのは、痛みを我慢して何でも続けたわけではない点です。決めた範囲を超える痛みが出たら負荷を落とし、翌朝に響くなら量を減らす、という条件つきの継続でした。ヨガに置き換えるなら、ポーズを全部続けるか全部やめるかではなく、深さと時間を調整しながら続ける形が近くなります。
Beyer(2015)は、慢性的なアキレス腱症の 58 人を、伸びながら力を出す訓練と、重い負荷をゆっくり上げ下げする訓練に分けて 12 週間行いました。どちらも 12 週までに改善し、その改善は 52 週まで保たれました。12 週時点の満足度は 100% と 80% で差の傾向がありましたが、52 週では 96% と 76% で明確な差にはなりませんでした。訓練をこなした割合は 78% と 92% で、重い負荷をゆっくり扱うほうが続けやすかったようです。
29 の試験をまとめた van der Vlist(2021)では、何もしないより何らかの治療のほうが 3 か月時点で良さそうでしたが、根拠の確実性は非常に低い〜低いでした。12 か月時点では、運動療法と注射などの治療の間に、臨床的に意味のある差は見いだせていません。76% の試験がバイアス(結果を歪める偏り)の危険が高いと評価されており、治療どうしの優劣はまだ確かではありません。
長い目で見ると、症状が消えても腱は元どおりとは限りません。Paavola(2000)が 83 人を 8 年追ったところ、29% が手術を受け、41% は反対側の腱にも使いすぎの症状が出ました。一方で 84% は活動のレベルまで戻り、8 年時点で 94% は無症状か、強い運動のときだけ軽い痛みがある状態でした。
下向きの犬で、かかとはどこまで下ろすか
下向きの犬のポーズは、両手と両足で体を支え、お尻を高く上げる形です。ふくらはぎの後面が伸びるため、かかとを床に近づけるほどアキレス腱に伸びる力がかかります。ここで覚えておきたいのは、研究が確かめたのは「伸ばし切る」ことではなく「ゆっくり負荷をかける」ことだという点です。伸びが強すぎるときは、かかとを下げるより先に膝を曲げて弱めます。
かかとは、浮かせたままでかまいません。床につかない日が続いても、伸ばしの強さを競う必要はありません。膝を少し曲げるとかかとが下りやすくなり、前足の下に折りたたんだ毛布やブロックを置けば、伸びの強さを弱められます。これらは研究で比べられた方法ではなく、痛みを抑えて形を続けるための一般的な工夫です。
研究で使われた筋トレに近いのは、つま先立ちでかかとをゆっくり上げ下げする動きです。反動をつけず、上げるより下ろすほうに時間をかけると、腱に長く力がかかります。回数や深さは、翌朝の痛みを見てから増やします。ポーズのあとに強く伸ばして「効かせる」必要はありません。
ポーズを続けるかどうかは、形の美しさではなく、翌朝の反応で決めます。伸びを強くした翌朝にこわばりが強くなるなら、その日は前の深さに戻します。逆に翌朝が前日と同じか軽いなら、少しだけ時間を延ばしてみます。この上げ下げを繰り返すうちに、自分にとって無理のない範囲が見えてきます。
翌朝の痛みで、その日の負荷を決める
腱のリハビリでよく使われる考え方は、その日の痛みだけでなく、翌朝の反応を見て負荷を決めるものです。Silbernagel(2007)の試験でも、痛みを記録しながら運動を続ける方法が使われました。記録する項目を決めておくと、ポーズの深さを上げてよい日と、戻す日を分けやすくなります。
記録は、痛みの強さを一つの数字にまとめるより、場面ごとに短く残すほうが役に立ちます。歩き始め、階段の下り、立ち上がり、ポーズの最中、翌朝の最初の数歩、というように毎回同じ場面を選ぶと、前の週と比べられます。書く時間は 1 分ほどで足ります。
| 記録する項目 | 書き方 | 翌朝の見方 |
|---|---|---|
| ポーズの最中の痛み | 0〜10 の感覚で、始める前と終わった直後に書く | 前回より強い日が続くなら、その形は浅くする |
| 終わって数時間の反応 | 歩く・階段・立ち上がりで気になるかを一言で残す | 時間がたって強くなるなら、回数か深さを減らす |
| 翌朝のこわばり | 起きて最初の数歩の感じを、前日と同じ言葉で書く | 前日より重いなら、その日は負荷を上げない |
| 装具や靴の変更 | 変えた日と内容を書く | 変化の原因を一つずつ切り分けられる |
温かい部屋で体がよく伸びた気がしても、それは腱が伸びた証拠ではありません。温かい部屋でクラスに出た日も、判断は翌朝のこわばりと痛みで行います。室温が高いと汗をかきやすく、床が滑りやすくなるので、ポーズの前後に足元を拭くことも加えてください。
キノロン系の抗菌薬を飲んでいる期間
キノロン系の抗菌薬は、細菌の感染症に使われる薬の一群です。van der Linden(2003)の症例対照研究(断裂した人とそうでない人の過去の薬を比べる方法)では、飲んでいる最中のアキレス腱断裂の危険が、飲んでいない人と比べて 4.3 倍(95% 信頼区間 2.4〜7.8)でした。飲み終わって間もない時期は 2.4 倍(1.5〜3.7)、過去に飲んだことがある場合は 1.4 倍(0.9〜2.1)で、今飲んでいる期間がいちばん高いという結果です。
年齢が高いほど危険は大きく、60〜79 歳で 6.4 倍(3.0〜13.7)、80 歳以上で 20.4 倍(4.6〜90.1)でした。飲み薬のステロイドを一緒に使う高齢者で最も高いと結論づけています。60 歳以上で起きた断裂のうち、2% から 6% はキノロン系によるものと推計されています。
飲んでいる期間は、強く伸ばす動きと跳ぶ動きを控えめにしてください。断薬や変更を自分で決めず、処方した医師か薬剤師に、ヨガをしてよいかを含めて確かめます。抗菌薬が必要で処方された期間は、ポーズの強度より治療の完了を優先する、という順番になります。
抗菌薬の種類や飲み方は、感染症の部位や菌によって変わります。自分が飲んでいる薬がキノロン系かどうかは、薬の名前だけでは判断しにくいことがあります。お薬手帳や薬剤師の説明を確認し、不明なら薬局で尋ねてください。薬の影響は飲み始めだけでなく、飲み終えた直後にも及ぶため、自己判断で強度を戻さないようにします。
始める前と当日に確かめること
ヨガを始める前に、痛みが腱のどこにあるのか、腫れや熱がないかを一度確かめてください。歩くと痛む場所がはっきりしている、押すと痛い、階段の下りで響く、という状態なら、自己流で強く伸ばす前に整形外科で見てもらうほうが安全です。痛む場所が日によって変わる場合は、その変化も記録に残しておくと診察で伝えやすくなります。記録があれば、いつから、どの動きで悪化したかを説明しやすくなります。
「ブチッ」という音がしたあと、つま先立ちができない、腫れて熱を持つ、という場合は断裂を疑う合図です。そのときは動かさずに、医療機関を受診してください。この合図はヨガの最中でも家でも同じで、翌日まで様子を見る種類の症状ではありません。断裂を疑う症状がある人と、飲んでいる薬の影響が読みにくい人は、負荷を上げる判断を自分だけで行わないでください。
当日は、始める前に 5 分ほど歩いて体を温めます。床が滑りやすい日はマットの端を拭き、バランスを取るポーズでは壁や椅子を近くに置きます。痛みが出たポーズは、深さを浅くするか、その日は省いてかまいません。
ポーズの前後に、ふくらはぎを軽くさすったり、足首をゆっくり回したりするのも一案です。強くもんだり、痛い場所を押し続けたりする必要はありません。終わったあとは、その日の歩き方と翌朝のこわばりを記録に残します。クラスの前後に記録を読み返すと、その日の加減を決めやすくなります。
よくある質問
下向きの犬でかかとが床につかないときは、無理に下ろすべきですか。
下ろす必要はありません。研究で確かめられたのは、腱にゆっくり負荷をかける運動であって、かかとを床につけて伸ばし切る方法ではありません。膝を曲げる、かかとを浮かせる、前足の下に台を置く、のどれかで強さを弱めてください。翌朝の痛みが前日より重いなら、その形は浅くします。伸ばす時間を長くするより、回数を分けて短く行うほうが、翌朝の反応を読みやすくなります。
痛みがある日は、ヨガを休んだほうがよいですか。
一律には決められません。研究では、痛みを記録しながら負荷を続けた群も、6 週間やめた群も、12 か月後には同程度まで改善しました。ただし、歩くだけで強く痛む日や腫れがある日は休み、先に挙げた合図があれば医療機関を受診してください。休むか続けるかは、翌朝のこわばりの重さで判断します。休んだ翌日に急に元の量へ戻さず、前の半分ほどから試すと、どこで反応が出るかを見つけやすくなります。
つま先立ちの運動は、ヨガのポーズの代わりになりますか。
置き換えにはなりません。研究で使われたのは、ゆっくり時間をかけてかかとを上げ下げする筋トレで、ヨガのポーズと比べた研究ではないからです。ヨガの中では、その動きを 1 つの要素として足す程度が無理のない形です。回数を増やすのは、翌朝の痛みが上がっていない日だけにしてください。ポーズの最中に痛みが強くなるなら、その日は筋トレを足さず、形を浅くするところまでにします。
この記事の限界
対象になったのは、アキレス腱症と診断された人と、一般診療所の記録です。ヨガを続けている人を追った研究ではなく、38 人・58 人の試験は規模が小さく、29 試験のまとめでも 76% がバイアスの危険が高く、運動の種類と量、痛みの測り方も試験ごとに違いました。日本人を対象にした研究はこの根拠に無く、国内の患者に同じ数字が当てはまるかはわかっていません。
この記事は、かかとの少し上の痛みが腱の問題かどうかを確かめる代わりにはなりません。痛みの場所、腫れ、断裂の疑いを見分けるのは診察の仕事で、判断は整形外科の診察と、薬を処方した医師の指示に委ねます。
参考文献
- de Jonge S ほか. Incidence of midportion Achilles tendinopathy in the general population. Br J Sports Med. 2011;45(13):1026-1028.
- Silbernagel KG ほか. Continued sports activity, using a pain-monitoring model, during rehabilitation in patients with Achilles tendinopathy: a randomized controlled study. Am J Sports Med. 2007;35(6):897-906.
- Beyer R ほか. Heavy Slow Resistance Versus Eccentric Training as Treatment for Achilles Tendinopathy: A Randomized Controlled Trial. Am J Sports Med. 2015;43(7):1704-1711.
- van der Vlist AC ほか. Which treatment is most effective for patients with Achilles tendinopathy? A living systematic review with network meta-analysis of 29 randomised controlled trials. Br J Sports Med. 2021;55(5):249-256.
- Paavola M ほか. Long-term prognosis of patients with achilles tendinopathy. An observational 8-year follow-up study. Am J Sports Med. 2000;28(5):634-642.
- van der Linden PD ほか. Increased risk of achilles tendon rupture with quinolone antibacterial use, especially in elderly patients taking oral corticosteroids. Arch Intern Med. 2003;163(15):1801-1807.
足の裏から温まる床の上で、自分の呼吸の速さを一度確かめてみる
- 向く人: 温かい部屋で汗をかきながら、呼吸に合わせて体をゆっくり動かしたい人
- 向く人: 流派の名前より先に、暑さの中で自分の体がどう反応するかを知りたい人
- 向かない人: 妊娠中や心臓・腎臓の持病で、医師から高温の場所での運動を止められている人
- 向かない人: 暑さで気分が悪くなりやすく、室温の高い部屋そのものを避けたい人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。オンザショア立川店は立川駅から徒歩1分、溶岩プレートの床で部屋を温めるヨガスタジオです。
よくある質問
下向きの犬でかかとが床につかないときは、無理に下ろすべきですか。
下ろす必要はありません。研究で確かめられたのは、腱にゆっくり負荷をかける運動であって、かかとを床につけて伸ばし切る方法ではありません。膝を曲げる、かかとを浮かせる、前足の下に台を置く、のどれかで強さを弱めてください。翌朝の痛みが前日より重いなら、その形は浅くします。伸ばす時間を長くするより、回数を分けて短く行うほうが、翌朝の反応を読みやすくなります。
痛みがある日は、ヨガを休んだほうがよいですか。
一律には決められません。研究では、痛みを記録しながら負荷を続けた群も、6 週間やめた群も、12 か月後には同程度まで改善しました。ただし、歩くだけで強く痛む日や腫れがある日は休み、先に挙げた合図があれば医療機関を受診してください。休むか続けるかは、翌朝のこわばりの重さで判断します。休んだ翌日に急に元の量へ戻さず、前の半分ほどから試すと、どこで反応が出るかを見つけやすくなります。
つま先立ちの運動は、ヨガのポーズの代わりになりますか。
置き換えにはなりません。研究で使われたのは、ゆっくり時間をかけてかかとを上げ下げする筋トレで、ヨガのポーズと比べた研究ではないからです。ヨガの中では、その動きを 1 つの要素として足す程度が無理のない形です。回数を増やすのは、翌朝の痛みが上がっていない日だけにしてください。ポーズの最中に痛みが強くなるなら、その日は筋トレを足さず、形を浅くするところまでにします。