- 米国で働く妊娠中の女性 2,847 人を対象にした調査では、26.6%(757 人)が妊娠中に転び、全体の 6.3%(179 人)は職場で転んでいました(Dunning 2003)。
- 妊娠していない女性 40 人と、妊娠中の女性 41 人が、前後に動く床の上に立つ実験があります(McCrory 2010)。
- 木のポーズや半月のポーズには、片脚で体重を支える場面があります。
- 転んでしまったときは、痛みの強さだけで判断しません。
おなかが大きい時期の転倒とヨガ|妊娠中のバランスの研究と、片脚のポーズ
「この危険の高い人たちには、転ぶ前に防ぐ取り組みが急いで要ります」。妊婦の転倒を数えた研究は、最後の一文でそう訴えています(Dunning 2010)。梅雨の午後、玄関のたたきには傘のしずくが溜まり、大きくなったおなかで足元が見えにくくなっています。靴を履くために片脚を上げる前に、座れる場所や手を添えられる場所が気になります。転ぶ場面は、暮らしの中にもあります。
おなかが大きい時期に、片脚で立つポーズを続けてもよいのでしょうか。妊婦の転倒をヨガで減らせるという根拠は見つかっておらず、壁や椅子の利用、足元の水分を拭くことは、効果が検証された方法ではなく一般的な備えです。 片脚のポーズが自分に向くかは、妊娠週数だけでなく、健診で確認している体の状態にも関わります。転倒の調査は、ポーズ以外の日常の場面にも目を向ける材料になります。足元の条件も大切です。安全性がわからないまま、同じ形を続ける必要はありません。
妊婦の転倒はどれくらい起きているのか
米国で働く妊娠中の女性 2,847 人を対象にした調査では、26.6%(757 人)が妊娠中に転び、全体の 6.3%(179 人)は職場で転んでいました(Dunning 2003)。6.3% は、転んだ人だけを分母とした割合ではありません。職場での転倒の 66.3% には、滑る床を歩く・急ぐ・物を運ぶ場面が重なっていました。著者らは、サービス業や教育の現場で危険を減らす取り組みを評価すべきだと結んでいます。
出産後 2 か月以内の 3997 人の住民コホート(住民の集団を対象とする観察研究)では、1070 人(27%)が妊娠中に少なくとも 1 回転んだと答えました(Dunning 2010)。転んだ人の 35% は 2 回以上転び、20% が医療機関を受診し、21% は 2 日以上の活動制限を経験していました。転倒の特徴は、屋内が 56%、階段が 39%、3 フィートより高い場所からの落下が 9% で、互いに重なりを含む分類です。屋内と階段が多いことは、マットの周りに加えて、家の中の移動にも目を向ける理由になります。
妊娠中の転倒を扱った系統的レビュー(条件に沿って研究を集める方法)では、転倒する人は 25-27% とまとめられています(Hrvatin 2022)。危険因子は 13 の体の側の要因と 11 の環境の側の要因に整理されています。体の側には 30 歳未満、身長 160 cm 超、妊娠の進行、腰痛、関節のゆるさなどが含まれます。これらは転倒と関連する要因で、該当する人が必ず転ぶことを意味するものではありません。
これらの割合は、転倒を経験した人の多さを表しています。ヨガをした人としなかった人を比べて、効果を測った数値ではありません。転倒が珍しくないという結果から、特定のポーズを練習すれば防げるという結論には進めません。
おなかが大きくなるとバランスはどう変わるのか
妊娠していない女性 40 人と、妊娠中の女性 41 人が、前後に動く床の上に立つ実験があります(McCrory 2010)。初期の揺れ・全体の揺れ・揺れの速さは、妊娠後期では妊娠中期や妊娠していない女性より小さいという結果でした(P<0.05)。P 値は統計的な差の評価に使う指標です。この実験は外から揺らされた際の反応を測っており、転ぶ回数を数えたものではありません。
体の変化は、危険因子の整理にも表れています。おなかの周囲が大きくなること、腰痛、足首の硬さの低下や関節のゆるさが、転倒と関連する要因として挙がっています(Hrvatin 2022)。Cakmak(2016)も妊娠中の姿勢の安定と転倒の研究をまとめた総説(研究を概観する論文)です。これらは、本人の注意だけでは扱いきれない体の条件を考える材料になります。
日常の移動では、体の条件に床や荷物の条件も重なります。手すりがあっても、荷物で両手がふさがっていれば使いにくくなります。一般的な備えとして、荷物を持つ前に手すりに届くかを確かめたり、急いで移動しなくてよい時間を取ったりする方法があります。これらの工夫で転倒がどれだけ減るかは、今回の研究から数値で示すことはできません。
揺れが小さかったことを、妊娠後期のほうが転びにくいという意味にはできません。反応が変わる理由について、McCrory(2010)はさらに研究が必要だとしています。実験での揺れと生活の中の転倒には隔たりがあるため、測定結果だけで自分の安全性を判断することはできません。
片脚で立つポーズはやめるべきか
木のポーズや半月のポーズには、片脚で体重を支える場面があります。今回の根拠には、こうしたポーズごとの安全性を測った研究はありません。妊娠中でも続けてよいと一律に言える根拠もなく、自分に合う形は産婦人科の医師や指導者との相談が必要です。
一般的な備えとして、片脚のポーズは壁や安定した椅子に手が届く位置で行う方法があります。目を閉じて立つ形は省き、マットの周りの汗や水は始める前に拭きます。ポーズから次の形へ移るときは、急がずに動きます。これらは、妊婦の転倒を減らす効果が検証された練習法ではありません。
片脚で立つ時間を短くすることも、一般的な調整の一つです。周りの人が続けていても、自分の区切りで足を下ろせるようにしておきます。呼吸の回数を達成することよりも、無理なく形を終えられることを優先します。
動き出す前には、マットの端がめくれていないか、足元に物がないかを確かめます。濡れたタオルを床に置いたままにせず、通る場所を空けておきます。支えに使う椅子も、手を置いた際に動かないかを先に確認します。
クラスでは、妊娠中であることと妊娠週数を指導者に先に伝えます。医師から運動について指示を受けている場合は、その内容も共有します。代わりの形や休む場所を始まる前に相談しておくと、その場で無理に合わせる必要が減ります。
転びそうだと感じる場合は、片脚の形を続けることにこだわりません。両脚で立つ形や座る形への変更を相談できます。支えがあっても不安が残る場合は、そのポーズを省くという選択があります。
転んだあとに確かめること
転んでしまったときは、痛みの強さだけで判断しません。おなかを打った、出血がある、水のようなおりものが出た、おなかの張りが続く、胎動が減った、のいずれかに当てはまれば、その場で産婦人科に連絡してください。痛みの有無と、これらの変化の有無は別に確かめる必要があります。
米国ワシントン州の入院記録を調べた観察研究では、10 万件の出産あたり転倒による入院が 48.9 件あり、その 79.3% が妊娠後期でした(Schiff 2008)。けがは骨折が 47.4% で最も多く、次いで打ち身 18.0%、捻挫 17.3% でした。転倒による入院は、早産に向かう陣痛(相対危険度 4.4、95% 信頼区間 3.4-5.7)、胎盤早期剥離(同 8.0、4.3-15.0)、胎児の苦しさ(同 2.1、1.6-2.8)、胎児の低酸素(同 2.9、1.3-6.5)の危険の増加と関連していました。相対危険度は比較相手に対する発生の比、95% 信頼区間は推定値の不確かさを表す幅であり、これらは入院するほどの転倒に限った結果です。
胎盤早期剥離とは、赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれる状態です。先に挙げた合図がある場合に、自分で原因を見分けることはできません。産婦人科に転倒した状況を伝え、その後の対応を確かめます。
連絡するときには、転んだ日時と場所、そのとき何をしていたかを伝えます。記録を残す場合も、メモを整えるために連絡を遅らせる必要はありません。その後の健診でも、同じ状況を具体的に説明する材料になります。
入院記録の結果は、軽くつまずいた場合まで同じ危険の大きさだと示したものではありません。一方、軽い転倒なら確認が不要だという結論も出せません。転倒の程度と妊娠の経過を踏まえた判断は、産婦人科で行う必要があります。
妊娠の時期ごとのバランスの工夫
妊娠が進むにつれて、同じ動きでも取りやすい形は変わります。表の工夫は研究で効果を確かめた方法ではなく、その日の条件に応じた一般的な調整です。どの時期でも、週数だけで片脚のポーズの可否は決められません。
| 時期 | 起きやすい変化 | バランスの工夫 |
|---|---|---|
| 妊娠初期 | つわりで疲れやすく、立ちくらみが出ることがある | 片脚のポーズは椅子の背に手を置ける位置で行う |
| 妊娠中期 | おなかが大きくなり始め、足元が見えにくくなる | 壁のある側にマットを寄せ、片脚のポーズはその近くで行う |
| 妊娠後期 | 揺れへの反応が変わる(McCrory 2010) | 壁・椅子・手すりを先に確保し、目を閉じる形は省く |
| 時期を問わず | 関節がゆるみやすい(Hrvatin 2022) | 伸ばし切る手前で止め、反動をつけない |
支えを用意する際は、ポーズを取っている間だけでなく、始めるときと終えるときも手が届く位置かを確かめます。壁が近くても、途中で大きく体を移さないと届かない配置では使いにくくなります。位置を決める段階で、足を下ろして休む場所まで考えておく方法があります。
妊娠初期でおなかが目立たなくても、参加条件の確認は必要です。つわりなどで体調が悪いときに、支えさえあれば動いてよいとは言えません。ポーズの変更で対応するのか、休むのかも含めて相談します。
おなかが大きくなり足元が見えにくい場合は、準備の動作も見直す対象になります。一般的な工夫として、靴下を履くときは座れる場所を使う方法があります。着替えや片づけの最中に無理な片脚立ちを続けないことも、ポーズ以外の備えです。
温かい部屋のクラスと梅雨の足元
梅雨の午後は、屋内に入ったあとも靴や荷物の水分が気になります。一般的な備えとして、移動する場所に濡れた物を置かず、床を確かめてから歩きます。Dunning(2003)で挙がった滑る床・急ぐ・物を運ぶ場面は、職場での調査結果であり、特定のスタジオでの転倒状況を示したものではありません。クラスの前後の移動も、ポーズとは別に考える対象です。
立川のある溶岩ホットヨガのスタジオでは、妊娠中の人は溶岩ホットヨガに参加できず、常温のマタニティヨガのクラスがあります。この参加条件は、常温のヨガならすべての妊婦に安全という研究結果を意味しません。自分の妊娠経過で参加できるかは、産婦人科とクラスの両方に確かめる必要があります。帰りの移動まで含めて、無理のない予定かを考えることになります。
よくある質問
妊娠中でも片脚のポーズは続けてよいですか。
ポーズごとの安全性を調べた研究は見つかっていません。壁や椅子を用意し、片脚で立つ時間を短くして始め、転びそうだと感じた日はそのポーズを省きます。妊娠週数が進むにつれて楽な形は変わるので、同じ形にこだわらず、指導者に代わりの形を聞いておくと続けやすいです。片脚で立つ練習そのものを毎日続ける必要もありません。
転んだあと、痛みがなければ様子を見てよいですか。
痛みがないことだけでは判断できません。先に挙げた合図があれば、時間を置かずに産婦人科へ連絡してください。連絡するときには、痛みの有無に加えて、転んだときの状況と妊娠週数を伝えます。合図がはっきりしない場合も、受診の必要性を自分だけで決めず、産婦人科に状況を相談します。入院するほどの転倒を扱った研究の数字は、個々の転倒を自宅で判定する基準にはなりません。
ヨガは妊娠中の転倒を減らしますか。
今回の根拠からは、ヨガで妊娠中の転倒が減るとは言えません。バランスの研究は妊娠後期の揺れへの反応を調べていますが、ヨガの効果を測ったものではありません。日常で体を動かす目的があっても、転倒予防の効果まで期待できるという意味にはなりません。片脚で立つ練習を増やす前に、現在の妊娠経過で参加できるか、どのような形に調整できるかを相談する必要があります。
温かい部屋のクラスは妊娠中に選べますか。
先に述べた参加条件を確かめる必要があります。クラス名にヨガとあっても、妊娠中に参加できるかは名前だけでは判断できません。参加可能なクラス、週数などの条件、医師からの指示をどう伝えるかを事前に確認します。常温を選ぶ場合も、自分の妊娠経過で運動してよいかの確認は必要で、室温だけで安全性を決めることはできません。
この記事の限界
適用範囲は、米国の働く女性や住民コホート、入院記録などに偏っています。日本人を対象にした転倒の研究は今回の根拠にはなく、住まいや通勤環境が異なる人に同じ割合を当てはめることには限界があります。バランスの実験も健康で合併症のない妊婦を対象とし、経過に問題がある妊娠まで含めた結果ではありません。
ヨガや温かい部屋でのクラスが転倒に及ぼす影響は今回の研究では確かめられておらず、本文の工夫も転倒予防の効果を検証したものではありません。続けるか休むかは、健診で診ている産婦人科の医師に妊娠週数と体の状態を伝えて相談する必要があります。
参考文献
- Dunning ほか. A major public health issue: the high incidence of falls during pregnancy. Matern Child Health J. 2010;14(5):720-725.
- Dunning ほか. Falls in workers during pregnancy: risk factors, job hazards, and high risk occupations. Am J Ind Med. 2003;44(6):664-672.
- Hrvatin ほか. Risk factors for accidental falls during pregnancy - a systematic literature review. J Matern Fetal Neonatal Med. 2022;35(25):7015-7024.
- McCrory ほか. Dynamic postural stability during advancing pregnancy. J Biomech. 2010;43(12):2434-2439.
- Cakmak ほか. Postural balance and the risk of falling during pregnancy. J Matern Fetal Neonatal Med. 2016;29(10):1623-1625.
- Schiff ほか. Pregnancy outcomes following hospitalisation for a fall in Washington State from 1987 to 2004. BJOG. 2008;115(13):1648-1654.
足の裏から温まる床の上で、自分の呼吸の速さを一度確かめてみる
- 向く人: 温かい部屋で汗をかきながら、呼吸に合わせて体をゆっくり動かしたい人
- 向く人: 流派の名前より先に、暑さの中で自分の体がどう反応するかを知りたい人
- 向かない人: 妊娠中や心臓・腎臓の持病で、医師から高温の場所での運動を止められている人
- 向かない人: 暑さで気分が悪くなりやすく、室温の高い部屋そのものを避けたい人
このサイトはオンザショア立川店の運営者が制作しています。オンザショア立川店は立川駅から徒歩1分、溶岩プレートの床で部屋を温めるヨガスタジオです。
よくある質問
妊娠中でも片脚のポーズは続けてよいですか。
ポーズごとの安全性を調べた研究は見つかっていません。壁や椅子を用意し、片脚で立つ時間を短くして始め、転びそうだと感じた日はそのポーズを省きます。妊娠週数が進むにつれて楽な形は変わるので、同じ形にこだわらず、指導者に代わりの形を聞いておくと続けやすいです。片脚で立つ練習そのものを毎日続ける必要もありません。
転んだあと、痛みがなければ様子を見てよいですか。
痛みがないことだけでは判断できません。先に挙げた合図があれば、時間を置かずに産婦人科へ連絡してください。連絡するときには、痛みの有無に加えて、転んだときの状況と妊娠週数を伝えます。合図がはっきりしない場合も、受診の必要性を自分だけで決めず、産婦人科に状況を相談します。入院するほどの転倒を扱った研究の数字は、個々の転倒を自宅で判定する基準にはなりません。
ヨガは妊娠中の転倒を減らしますか。
今回の根拠からは、ヨガで妊娠中の転倒が減るとは言えません。バランスの研究は妊娠後期の揺れへの反応を調べていますが、ヨガの効果を測ったものではありません。日常で体を動かす目的があっても、転倒予防の効果まで期待できるという意味にはなりません。片脚で立つ練習を増やす前に、現在の妊娠経過で参加できるか、どのような形に調整できるかを相談する必要があります。
温かい部屋のクラスは妊娠中に選べますか。
先に述べた参加条件を確かめる必要があります。クラス名にヨガとあっても、妊娠中に参加できるかは名前だけでは判断できません。参加可能なクラス、週数などの条件、医師からの指示をどう伝えるかを事前に確認します。常温を選ぶ場合も、自分の妊娠経過で運動してよいかの確認は必要で、室温だけで安全性を決めることはできません。